P--1349 P--1350 P--1351 #1御裁断申明書 御裁断申明書 抑当流安心の一義といふは 聞其名号 信心歓喜 乃至一念をもて 他力安心の依憑とはするなり 此こと はりをやすく知らしめんかために 中興上人はさしよせて もろ〜の雑行雑修自力の心をふりすてゝ 一 心に阿弥陀如来我等か一大事の後生 御たすけ候へとたのめ とは教へ玉へり よりて弥陀をたのむものは 決定往生し たのまぬものは往生不定なりと 前々住上人も仰られたり 又前住上人も みつからたしかに 弥陀をたのみたる一念の領解なきことを 深くいましめ玉へり 此一念といふは 宿善開発の機 その名号 を聞持する時なり 此たのむ一念の信心なくは 今度の報土往生はかなふへからすと 相承しはへりき し かるに近来門葉の中に 此たのむ一念につきて 三業の儀則を穿鑿し 或は記憶の有無を沙汰し 殊に凡夫 の妄心をおさへて金剛心と募り 或は自然の名をかり 義解なといふ珍しき名目を立 種々妄説をなして  道俗を惑はしむること 言語道断あさましき次第ならすや 是予か教示の不遍ところにして 不徳のしから しむるにやと 朝に夕に寝食をわすれて ふかく心をいたましむる処なり おの〜いかゝ心得られ候や  上に示かことく 弥陀をたのむといふは 他力の信心を安く知らしめ給ふ教示なるか故に たすけ玉へとい P--1352 ふは たゝ是大悲の勅命に信順する心なり されは善導は深く機を信し 深く法を信せよと教玉へり 先我 身は極悪深重の浅ましきものなれは 地獄ならてはおもむくへき方もなき身なりと知るを 深く機を信する とはいふなり 又かゝるいたつらものをあはれみまし〜て 願も行も仏体に成就して すくはんとちかひ 玉へる御すかた すなはち阿弥陀如来なりとおもひて 我往生を願力にまかせ奉る心の少しも疑なきを法を 信するとはいふなり されはいたつらに信しいたつらにたのむにはあらす 雑行雑修自力をすてゝ 二心な く信するか すなはちたのむなるか故に 其心を顕はして たすけ玉へと弥陀をたのめとは教玉ふなりき  さらに凡夫不成の迷情を思ひかたむる一念を 往生の正因と教玉へるにはあらすと知へし 此義は別紙にも 述候得とも 猶まとひのとけさらんともからもあるらめと 重て筆を染るものなり かまへて末学の書鈔等 によりて 一流真実の義をとりまとふへからす されは事に大小あり 業に緩急あり 今示す処は当流の肝 要 我人生死出離の大事なれは 是よりいそくへきはなく 又是よりおもきはあらさるへし もし猶我執を つのりてあやまちをあらためすは 永き世 開山聖人の御門徒たるへからさるものなり こひねかはくは心得惑たる人々 今日より後はいよ〜妄情を ひるかへして 相承の正義にもとつかるへきことこそ肝要に候へ 古語にも 知其愚非大愚也 知其惑非大 惑也と いへり されはみつからまとふとしりてまとふものあらし 惑ふはまとひを知らさるか故なり か ゝる人は明者の指南にあらすは 誰か其惑をとかんや 此むねよく〜分別あるへく候 一息不追千載長往 P--1353 ならひなれは いそきて信心決得有へく候 さて信心決定のうへには 行住座臥に南無阿弥陀仏〜と 仏 恩を報謝し奉り 王法国法に違戻なく 仁義之道を相嗜 如法に法義相続ありて 今度の往生を待うる斗の 身となられ候はゝ 予か本懐是にすくへからす候なり あなかしこ〜      [文化三丙寅稔十一月五日]      [龍谷第十九世釈本如(花押)] P--1354